この本はたとえ中途挫折しても読む価値がある【書評】高校生からわかる資本論
モノのように切り捨てられる労働者を見てマルクスは資本論を書いた
「働く人たちは単なるモノ扱いだ」と、マルクスが資本論を書いた時代を再現している現代日本。
マルクスの時代から140年も経っているというのに。
かつては一億総中流と言われ、日本の社会は世界一成功した共産主義とも揶揄されていました。
それがわずか10数年で、働く人が容赦なく切り捨てられる世の中になってしまいました。
なぜこのように日本社会が変質したのか、鮮やかに解説しているのがこの本です。
実は「資本論」を読破しようとして、私はこれまで2回挫折しています。
20代の時に読んで意味不明、30代の時にはわかったようなわからないような・・・で終わりました。
独学だったらこんなものでしょうが、資本論という本はなぜか忌避できぬものというイメージがありました。
東西冷戦の終結の影響は、こんな形で日本に現れた
ベルリンの壁が崩壊したときの高揚した気分をよく覚えています。
それは私だけではなく、日本全土をおおった感覚だったと思います。
「これから素晴らしい世の中になる」と本気で人々は信じていたのです。
壁が崩壊した後、ソ連解体、東ドイツは西ドイツに吸収されるような形で統一を果たし・・・と、世界は大激動の時代に入りました。
それでも日本には、冷戦終結自体は大きな影響を与えたようには見えませんでした。
しかし、社会主義国家が崩壊したことが、日本もおかしくなる原因となったのです。
「資本主義は社会主義に勝ったんだ。市場の力を生かしたからだ。市場マンセー!」と考え始めたのがつまづきの最初でした。
資本主義が先祖返りしたのが新自由主義
社会主義国が勝手にコケたのに、資本主義国は「資本主義がやっぱり優れているんだ。市場の力を生かしたシステムが素晴らしいのだ」と勘違いしてしまいました。
そこから「すべては市場、マーケットに任せましょう。そうすれば経済はさらに発展するでしょう」という新自由主義という考えが広まりました。
かつて冷戦時代に社会主義に人々が傾かないように、いろんな仕組みを作って労働者の権利を守ったのに、それらを撤廃し始めました。
「規制緩和」という名のもとに、いつの間にか日本はマルクスが生きていた時代の資本主義経済に戻っていきました。
日本はなぜ世界で唯一成功した社会主義と呼ばれたのか?
日本が先の大戦中に、戦争反対の声を上げた人たちがいました。
その人たちの多くはマルクス主義者だったのです。
戦時中は弾圧されていた彼らは、戦後一躍時の人となりました。
日本ではこうした経緯で、戦後しばらくはマルクス経済学が経済学の主流となりました。
だから戦後の日本の官僚、大企業のトップたちは学生時代にマルクス経済学を学んでいたのです。
資本主義というものは自由勝手にやっておくと労働者の権利が失われて労働者が貧しい状態になる、そうして革命がおこるんだよ、と日本の指導者層は学びました。
年を経てもその考えは、彼らの頭から消えませんでした。
ところが社会主義国がコケちゃったため、「マルクス経済学って間違いじゃないの?」という疑念がわきあがってしまいました。
その後主流になったのは、「国がマーケットに介入するのはよくない。マーケットに任せれば経済は発展する」と考える新自由主義を反映した経済学でした。
この新自由主義の考え方を持つ人たちが、どんどん役所に入ってくるようになり、様々な規制を撤廃し始めます。
それは「なんでも自由、就職する自由、失業する自由もありますよ」という謳い文句で、立場が弱い人を切り捨てることでもありました。
私の結論
上記までが前書き部分に当たります。実に内容が濃い本書です。
実は私は、この本を読破しないまま書評を書いています。
前書きに当たる部分を読んで、「おお!そうか!」と興奮して書評を書き始めてしまいました(笑)
この本は前書き部分だけでも読む価値があることを、皆さんにお伝えしたかったのです。
さっすが池上さん。こんなに高揚感を味わう読書体験は久しぶりでした。